真昼の淡い微熱

感想ブログ

海と毒薬/遠藤周作

名作文学とか読んだの1年ぶりくらいだな……。

遠藤周作初めて読んだしどういう話書く人かも知らんし、米軍捕虜解剖モノ、という知識だけ入れて読んだけど、描かれる「日本人の罪の意識」は心当たりにドキッとした。

でも序章はなんもぴんとこなくて、解説読んでやっと読む方向性と姿勢を掴んだ感じ。
だって「実は捕虜解剖の犯罪者」という「異質性」を、私は感じ取ることがなくなったもの。何か機会があれば皆そういう状況に落ちるでしょって流してたからつまらなかった。
でも私のこれは少しズレた、少なくとも後天的に獲得せねばならなかった感情であるのだと解説読んで思った。
(ていうかこの解説、佐伯彰一氏凄いな。きちんと解いてまとめて読書の指針を「解説」してくれる。ふわっとした批評や義理の苦しい絶賛や単なる著者紹介や下手に膨大な引用、みたいな解説読みすぎてたから驚いた。)


戸田が私だった。
罪の意識の欠如した日本人。
濡れ衣着せられた子が自分がやったと認めた途端腹痛が収まるとか、そういう罪悪感が微塵もない。
私はむしろ不思議なんだよ。「罪悪感」のある人間というのが。周りにそういう日本人がいてもね。
罪の意識に苛まれない自分がくるしい。そうでなければならないはずなのに感知できない。嫌だなあ、私がそこにいる。すんでのところで宗教と相容れないはずだよ。
割り切っていたけど、そうもいかない事態が起こった。
それが戸田にとっては生体解剖だった。それだけ。
だから「世間罰しかない」と自嘲する戸田がもう身につまされて……。
サイコパスってそんなに遠い存在ではないと思うのよ。神がいないから。

とはいえ、グロは元々駄目なので、田部夫人の手術はショッキングだった。生きていた人間が苦痛に歪み死ぬ瞬間。一日中引きずった。
以前は吉村昭の死体解剖小説も挫折してたからちょっとは慣れたのかな……。
捕虜が、医者は信頼できると安心してはにかんでそして死んでいくというのも痛ましい……。

病院の出世争いはここでは些末な問題であるとう見方も新鮮だった。
悪がある、そうではない、もっと大きな運命の話。
勝呂は考えることを放棄したから、上田は女という性への処遇に呪われたから、戸田は罪悪感を獲得しようとして、海に流されていく。
実際に手術を施した人たちの心情は描かれない。それを不気味とは思わなかった。戸田のような葛藤を持ってるかもしれない。持ってもないかもしれない。持ってなくとも日本人という名のもとでは充分人間味のある性質なのだと思う。

続編があるらしいので、読むか。それは解答編なのか。