真昼の淡い微熱

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未解決事件 オウム真理教秘録/NHKスペシャル取材班

堅実な良書。


何より「マインドコントロール」の言葉を疑い「その前に信者の責任放棄があった」と言ってくれたのが良かった。
「操られる」前に自ら「操られる」ことを望んだ人たちの集まりがオウムであったのだと私も思ってるから。
「責任分散の構造」も、改めて言われると、納得。

事件当時、警察から逃亡するサマナに対して「出頭は自然に任せる」と言った麻原。今まで麻原の思惑に従ってきたのに、いきなり任せると言われた苦悩よ……。
出頭せよって言ってたら平田も菊地も高橋も間違いなくすぐに出頭していた。

警察の捜査の観点もよくまとまってて新鮮。
波野村強制捜査の時には内部に信者がいたから漏洩したとか。
県を跨いで捜査する体制が確立してなかったとか。
「警察は地下鉄サリン事件が起こるのを知っていた」っていうのは「怪文書」の「密閉された空間で使用すれば未曾有の惨劇が」って記述からだとか。



取材にあたってテープ解析班の「麻原って魅力的ですね」って証言も読めてよかった。
そうか、やはり、カリスマ性が彼を尊師たらしめていたのだと。信者以外の人にもそれがわかるのだと。
私も聴いてみよかな。youtubeとかにあがってるかな。
そういう話すると周りに「洗脳された?」って心配されんのあるあるwww


私はでも、当時の報道を全然知らない世代なのよね。
「当時はこう思ってたけど、実はこうだったんだ!」って衝撃がないのはちょっと残念。
「選挙大敗後に武装化したと思われていた」のとか、へえ~って感じ。

高橋シズヱさんの「報道はオウム寄りだった」の言葉とか。
その「オウム寄り」の内容はバッシングだったけど、オウム幹部やらを映してばかりで被害者に寄り添っていなかった、という意味らしい。
それも、へえ、と。



記者「みんなピュアなんですよ。純粋にオウムに何かを求めて入ってきたのに、組織が勝手に暴走しちゃって……」
デスク「お前、オウムに寄り添いすぎてないか?」「お前、被害者や遺族をどれだけ取材してきたんだ? え? 遺族は二度も地獄に突き落とされてるんだ」
(430ページより引用)


でもこれは違うよね?
オウムが一般信者の知らぬ所で暴走して可哀想だと思ったからって、オウム被害者の気持ちを慮れないことにはならないよね?
オウムへの「理解」の言葉とメディアの被害者蔑ろは関係ないじゃない。
何で白じゃなければ全部赤になるのか。
(そしてこの構図こそ、私がオウムを知りたいと思う最大の理由)

私はただの野次馬なんで、被害者については『アンダーグラウンド』さえ読んでないくらいだから、「オウム寄り」の思想を持ってることは自覚してるけど、取材する立場の人がオウムへの「理解」を拒むのであれば、一面的な見方にしかならないでしょう。
わりと切り込んでいて思考停止しない良書だっただけに残念。