真昼の淡い微熱

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リカーシブル/米澤穂信

うっっわあああめっちゃしんどくて面白かった……。


米澤作品読むと自分の許容できる鬱としんどくなる鬱の種類がわかるな……。
自我否定とか、「特別な自分というアイデンティティーの粉砕」系はいけるしむしろ好きですもっとやれって思うこともあるけどこれは……居場所の完全喪失はおまえ……。
もう、初めから肩身が狭くて不安定で、世界から拒絶される恐怖を神経質なほど感じている主人公を描いているのに、話が進むにつれて少しずつ剥がれ落ちるように足場を失っていく様が……最後に救いとなるものはなにもないだろうという信頼(信頼です)があったから余計しんどい。
ママが放心状態で居間を出ようとしてハッと離婚届に飛びついて照れ笑いする描写……しんどい、しんどくて最高。

だから、あんなに疎ましく思っていたサトルがハルカが完全に狂う直前かすがいになる――その反転に至るまでの心理過程がすごい。


前半は慎重に伏線を張り巡らせる、なにかが異常であると警告しながらモヤモヤさせたまま進む。
そのモヤモヤが晴れる瞬間への期待と信頼を持ちつつも辛抱強く退屈をやりすごした。
そして三浦先生の事故から収束に向かって加速していくにつれどんどん引き込まれ、ひとつの伏線が回収された瞬間の、快感。
この構築が病みつきになる……。
そしてメインディッシュの謎解きの、渾身の勝利の確定。明かされてく真実と繋がる一本軸の心地よさ。
しかしそれだけに留まらず、ハルカが疎外されたこの世界でこれからも生きつづける諦念も、織り混ぜて。
ああ上質なエンタメ大好きだなあ……。

不思議な現象→種明かし→しかしひとつだけ現実的とは言えない不思議な疑問が残った……というラストは定番だけど、米澤さんはすべて堅実に現実でまとめる作家だと思ってたので、少し驚いた。
ともかく旅のお供の小説として最高でした。