真昼の淡い微熱

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THE FOLLOWER2

蒼穹のファフナーEXODUS』11巻特典CDドラマ。
なんかもったいなくて聴けなかった……。
しかしキャストだけ確認していたので恐らくそういう話だろう、とは、予感していた。そういう話だった。


うーわー……なんかもう当たり前のように享受しているけれども凄いなあ、破壊と構築にも従来のファフナー観を一微たりともブレさせず、そつなくセルフオマージュというか旧来のものと対比させ、メタ的にも驚きを散りばめた上で、本編の隙間を埋めるだけでなく新しいものを提示する。

ちょっとこれは一度聴いただけでは理解しきれなかったので何度も聴いてからブログの記事としてはupするけど……。


とりあえず一騎総士真矢についてそれぞれ驚いたこと。
一騎、まだ「戦いたくない」という気持ちはあったんだ?!
……と思って聴き直したら「戦いを忘れて穏やかな気持ちでいなくなれれば」(と思ってた)だったから、違うわああ一騎だわ……と思った。
あと「調和に成功してもいずれお前の心はもとのままではいられなくなる」って情報!!そっか!!
一騎どうなるの……既に二年経った最終話の一騎の心もなにかしら変容していたの?

総士、このときになるまで心象の海はガラスの向こうだったんだ?!
それが父に与えられた島を守る思想を捨てきれなかった証ということなのか……だから26話でやっとジークフリード剣司に預けて一戦士として戦えるのが気分よいって言えたのかしら。

真矢ちゃん、未来を選択していたんだ?!
守りたいものを守るエゴを突き詰めていったというのが私の真矢ちゃん観だったよ……それを否定してからアルゴス小隊壊滅させたのかよ……待って見返さなきゃ。


とりあえずなあ、私は終わりを迎えた物語に対して「潔さ」を求めたがる傾向にあるし特にファフナーに関しては色々感情渦巻くのでEXODUSの続篇いらない派なんですけど、これを聴いて、見たいような、やっぱり見たくないような、複雑な気分にさせられた。(と、これ書いたあと同化イベント行ってきて、発表にあ~~そっかどうなるのかな~~~と思った、、)

EXODUSはファフナーの続篇としてめちゃくちゃ完璧なのよ。
今までのファフナーが描いてこなかった、言わばファフナーの裏側を見事補完しえた。
それが「相互理解」の掘り下げであったり、内部に深く潜り込むような陰の物語から外へ向かう陽の要素の取り入れであったり、人類軍という曖昧模糊な部分の強化であったり、人間の有限性という宗教最大のテーマへのフォーカスであったり……。
凹であった物語に完全なる凸を「補完」したのならあとはその完璧な立体を破壊することに主眼を置くべきでしょう。

……そういうメッセージをも、このドラマCDに組み込んでしまったのは本当に恐るべし……私はなんのエンタメを見せつけられているんだ……。

前巻10巻の特典座談会でも冲方さんは言った。「続篇があるなら一騎は倒されるべき」と。
うん、それは見たいんだ。
今まで培ってきたものの破壊こそが次世代が生まれる意味だから。と、ファフナーはここで言ってしまったから。
それはつまり業の断絶。輪廻転生の否定。(ここでの輪廻転生観はこっちで感想書いた『輪廻と解脱』に記されていた現代価値観に依拠している)

完全に新しいものを作るのは見たいけどもうそれ絶対総士の人格統合されないってことだからな……それはわかってる……つらい。
新しいものを受け入れられるかどうかもわかんないし。


そんなふうに思いを馳せたけど総士があの時点で完全に島の呪縛といえる部分を断ち切れたというのは喜べるんではないですかね……総士本当に思い残すところなく死んでいったんだな……。
あ、公蔵のことを「死」と表現したのもちょっとぎょっとしました。一騎真矢は今までに倣って「いなくなる」と言ったのに。
死かあ、総士は一度無を経験したから「いなくなる」ことと「死」を分けているんだろうか、いや、全然思い付きだから未検証だけどこれ。

公蔵パパとのやりとり凄かったね……中田さんEXODUS見てたということだけどまったく違和感なくパパとして溶け込んでいた。念願叶って再演!!
「疲れているところすまない」という気遣いとか「お前がいるところに私がいる」という親心とかすごい……うわあって……。
その掛け合いから引き出される「守るべきは、対話の可能性です!」とエネルギーと覚悟を持って断言する総士の思いも凄かった。
自販機9歩笑ったけどどんどん話進むから迂闊に笑ってられなかったじゃん!!

総士の「この島のあり方を否定する!」の覚悟に比べて一騎の飄々と正解にたどり着いちゃう感。
だけどずっと考えていたんだよね。間違うことだってあるんだよね。
(25話史彦に叱咤されたりとか、「守るよ、みんなを」・アショーカに命を託して永遠の戦士になる道等選択は色々あって迷って決断して考えていたとか)




ひたすらに「未来」を求める倫理的活性化。
本当に必然だと思いますよ、今まで陰を突き詰めてきた物語が陽を描き全体性を希求したのがEXODUSなのだから。本作はそれの誇張的象徴と言える。
そんなん総士だって過去の呪縛を断ち切りますよ。
物語の必然性とキャラクターの必然的選択がよくもまあここまで合致しますよね……と。何度遭遇したって美しすぎるもの。

面白いなと思ったのは真矢ちゃんの選択。
この、「わからない。これって選択したっていうのかな」っていう、自分的にはふわふわだけど実際は「今までとまったく違う自分になる」という大きな変革を迎えた構図、無印15話の一騎だ。
一騎はこれまでを経て成熟してきてるけど真矢ちゃんはここで初めて成長していくわけだもんな。まあ今回はあのときの一騎より複雑か。ていうか一騎の選択がいつだってシンプルなんだ。
撃った爆撃機の相手は「自分で決めない人たち」と思うほうが楽なのに「誰かを守りたかった」とするね。
「新国連のあの人も平和を捨てるまえに沢山のものを奪われたんだと思う」に思わずヘス真矢を感じてしまって萌えた。。。
ていうか私真矢ちゃんは節操なく百合カプつくりたいという意味で好き。。。

そうかー23話のアルゴス小隊ごんごん壊滅させていった真矢ちゃんは「私は!私のエゴで大切なものを守る!」だけではなく、未来の対話を切実に守ろうとしたから躊躇なくいけたのかー。
……え、待って、じゃあ最終話、新しく「未来を求める」に比重を置いた真矢ちゃんがそれを求めることで余計に孤独になった末に守ろうとした未来そのものに「守ってくれてありがとう」って全肯定されるの……?真矢美羽やばくない…………?
10話の「家族を置いていけないよ」は、まだ海の鏡の向こうのつまり手元にある大事なものを守りたい思いのほうが強い真矢ちゃんだったわけで。
真矢ちゃんの海――翔子に救われ、カノンに肯定され、最後一人で海を割る。
そりゃ成長しますわ……。本当にだって今回真矢ちゃんだけ全員の選択が一致するかどうかの話聞いてないんだよ、一人で選んだんだよ。



一騎はもう迷いなく選択できてしまうんだね。
紅音さんに「力の代償が他者の命を奪うことでもあった場合お前はその力を求めるのか?」と問われて「それは誰のことを言ってるんだ?」って聞いたとき想定してるの絶対総士だよね。
具体的には誰かを想像していなくても総士がいなければ真っ先にこの疑問は出ないはず。
真矢ちゃんとは一応19話~21話で(仮初めかつ不安定な)「対等」関係になったと思っているんだけど犠牲として連れゆくまでに思ってるかっつったら違うもんな……。それ以外の人は一騎にとって疑いようなく庇護対象だからほぼ論外。
自分の命の使い道のなかに総士を勘定しているとちゃんとわかってよかったな。まあ当然っちゃ当然なんだけどEXODUSの一騎はひたすら自己希求に投じていたからちょっとファンとして及び腰になっていた部分はあったので。
一騎だって総士と一緒にありたかったんだよーーー「待て、総士、俺も」なんだよーーーー!!!(まだ全然受け入れきれてないというか最終話感想読んだらわりと平然と呆然としてやがるんだけどじわじわ実感していくうちに蝕まれていったんだな私、、)

だけどその一騎も犠牲を受け入れ外向きに未来を求めたと。それは確かに「守るよ、みんなを」一辺倒だったEXO9~18話までを考えると劇的な変容だ。
だから解脱ができたのだと。
それなら一騎は母性だけの人ではないんだよなーていうか概念的には母性原理も父性原理も併せ持つ両性性の人だと思ってるし一騎自身の性自認は無性であっておかしくないというか性別に頓着しない人だと思う。(唯一ぎりぎりキャラ造形が危なかったというかちょっと脚本卑怯かつ上手いなと思ったのが無印21話)



最後の各々の「さようなら」。
「行ってきます、母さん」がさー!さよならの意味になるとかさー!
今ふと思った。
ずっとこの紅音さんのことを一貫して「母さん」と呼んでいてでもそれがいなくなった自分の母親でないことはちゃんと認識していてしかし自分の母親として「行ってらっしゃい」って言われると一瞬驚きつつすぐに「行ってきます、母さん」と対応できる……。
これ総士にも転用できるやつだよね???こそうし対応解釈これでいけるよね???
総士が……初代総士の面を不意に現したら……「ああ、総士」とか「お前って本当に不器用だな」とか言う……一騎……うう。

「本当のお別れですね、父さん」はこの台詞とても好き。
というのはまあ好きな映画のそっくり同じ台詞が好きだからですが。
ここのBGMのマッチ具合がすごいなこれなんだっけと思ったら『生存という選択』……!!
他にどこで使われてたっけ。
そうそう、「世界をどう祝福する?」は未来を託され新たに生き続ける者が問いかけられる言葉なんだそっか……。




疑問点。
★何故島のミールはこの三人(+カノン?)に選択を迫ったのか?一騎と総士だけでなく何故真矢ちゃんに、はたまた何故他のパイロットが含まれないのか?
――この話を人にしたら、「こういう形で顕在化したのがこの三人ってだけで他の人も同じ選択をしたんじゃ?」って言われてストンと納得した。
わりとそれな気がする。
そうだよなーカノンも未来を得ようと世界を祝福したんだ……。

★何故一騎の海が出てこなかったのか?
これは一騎は自己の海に関してはもうとっくに乗り越えていたからなのかなあ……今一騎の海どうなってるんだろう……でも一騎は乗り越えつつ一抹の未練は残している(それで安定していられる)キャラだから逆に乗り越えなくていいものとして今回海が出なかった可能性……うーんあんまりしっくりこない。

★真矢ちゃんの海、向こうに誰もいなくて守るものの象徴としての霧もないのはどういうこと?
でも「その向こうに守りたいものがある」ってはっきり示されてるんだよな。ここよくわからん。



実を言うと一騎の心情の掘り下げがあったらやだなあと思ってたんだけどまあそこまでなくてほっとした。
空白は取っておいてもらいたかった。
物語論理的な感情転換は充分描かれているのだから、空白だけどもそれによって各々ちゃんと補完できるタイプの作品ならばわかりやすさなんかいらないのでそのままであってほしい。
しかし久しぶりのファフナー新作にはしゃいで随分感想書いたね……同化イベ楽しかったな私いつも延々一人で遊んでるタイプだから……。
新作というなら過去編を、親世代過去編をどうか!
澄美さんと彩乃さんの百合が見たいです笑