真昼の淡い微熱

感想ブログ

宇宙よりも遠い場所

これは秀作。
これだけ絶賛されるのもわかる。
ただなんか私の好みではない。痒いところに手が届かない。のが、さみしくなるくらいには丁寧に作り込まれていた。

地に足ついている。

「ここじゃないどこか」。
雑な史観であることを一応断っておくんだけど、70年代の「ここじゃないどこか」は憧れの地欧米だった、80-90年代は精神世界だったから「ここじゃないどこか」が求められた、00年代はそんな場所どこにもないとニヒリズムがあった。
だから2018年、そこに「南極」を代入できたのかなって。
雑史観はさておき「異世界転生」がブームになった10年代の中で「ここじゃないどこかを南極に設定しました」とは実に現代的な描き方だと思った。


名言がふつうに名言である。
11話「人を傷付けて苦しめたんだよ。そのくらい抱えて生きていきなよ。それが人を傷付けた代償だよ!」とかもそこで啖呵切らせるのも現代っぽさ。
12話「人なんて思い込みでしか行動できない。けど、思い込みだけが現実の理不尽を突破し、不可能を可能にし、自分を前に進める」とか好き。

南極第一歩の「ざまあみろ」とか母からのオーロラ写真メール「知ってる」とか、台詞回しが秀逸な良作は見てて気持ちがいい。
6話「気にするなって言われて気にしない馬鹿にはなりたくない!」とかね。

日向のやさしさ。自分の失敗をなんでもないふうに乗り切ろうとするとこういう声になる子なんだな~というのが演技で伝わってくる。
報瀬ちゃんの「見かけによらず」なキャラクター性も生き生きしている。自分が一番南極行きたいくせに作戦実行は嫌がる卑小さとかさ、「言いたい奴には言わせておけばいい」けど「デマは許せない」というどこに一貫性をつくるかとかさ、それぞれ多面的な人格の描写が抜群に上手い。

キャラデザもよかった。
鼻穴あるし、乳袋がない……走るシーンでも揺れが現実的な胸、これだけでノーストレス。風呂シーンに性的な視線がなく、会話も互いの裸体に言及したり意識したりすることなく終わる。女体であることは当たり前に日常である。
それだけで緊張が弛緩する……。
スリードながら唐突にモブに「好きです」と告白された女子高生の反応がガチドン引きの「……ひっ」なのもよかった、赤面しない。そいえばなんだかんだ鮫島さんと付き合うことになりましたエンドじゃなくてよかったな……ほんとに……。



しかしねえ。なんだか今ひとつ刺さらない。
なんだろうと思ったら、切望と努力がないからだ。
たしかに報瀬ちゃんでそれは描かれるけども、基本的には大して乗り越えることもなく苦労した末の報酬が与えられるわけでもない。
そういうアニメではないから。
期待してたものからズレが生じて、求めた期待が実らず宙ぶらりんになってしまった。
少々涙腺刺激されるシーンはあったのに「なんか違うな……」感が最後までぬぐえなかった。かなしい。琴線に触れなかった……。
よりもいよりぜんぜん評価されてないし実際総合的な出来も数段劣るけどわたしはアニメ版『こみっくがーるず』のほうがバシバシ刺さったのですよね……女子高生が集ってなんかやる深夜アニメとして比較すると。

普段女子高生がなんかやるアニメのあまりの善人ぶりに多少なり違和感を抱く側ではある。
人間的な嫌な感情やエゴがあふれてくるがそれでも善性を選ぼうとする高潔さが描かれる作品が好き。なのに、まさにそれを描くよりもいが響かない自分に戸惑った。
でもね、あのね、思ったけど、好きだからこそもっとじっくりねっとり炙り出してほしかったんだ、エゴ……。めぐっちゃん……。



だから正直主役たちにあんまり関心がない。大人組の話のほうが断然気になる。
資金繰りとか夢と挫折とか死のにおいとかリベンジとか訓練とかスポンサー集めとか旅程とか子供を連れてく親心とか見たいな~。
大人百合~~~~~~!
「吟と貴子の娘には敵わない」、「あやっぱそういう世界? 父出てないもんな」と思った程度には百合脳なのでほかの解釈がありうるというの検索するまでわからなかった。

報瀬ちゃんが最後にパソコンを吟に渡すシーン最高。
「私には必要ありません」、つまり、吟にはまだ必要なんだよ……! 後悔と執着と。報瀬ちゃんは母の死から解放され前を向く。でも吟は主役じゃないので完全に晴れることはない。
そう、前を向いた娘に球打たれてさえ!! 「ざまあみろ」に救われてさえ!!

何度もリフレインする貴子を呼ぶ叫び声にそのたび胸を打たれた。「きれい……」無線のシーンがいちばん好きですね。。
何度自責したろう。どんな覚悟で隊長に。貴子の娘を連れてく緊張と不安がもっと見たかった。




一気見する仕様じゃないな。一週間ごとに見るから余韻に浸れるんだろうな。
「ざまあみろ」とか12話ラストのメールボックスとかうるうるしたけど、毎回起承転結あってほぼ毎回泣き所つくるから正直乗りづらかったですね。

結月ちゃんについてですが、個人的に勝手に推しを重ねてしまう。
仕事に忙殺されて満足に友達と遊べなかったタレント。つらい。
……でも、私の推しは、人懐こくて誰にでも愛想よくて学校でもすぐ友達できるんだ……人付き合いがうまくいかず有名人ステータスとしてしかすりよられないステレオタイプやだなあ。高校中退キャラを作るなんてハズしやって好感だったのにな、と思ってしまって自分のなかのリアリティーラインが整合できなかった。
そうそう、作品自体には性的視線がなくて心地いいのに、作中では女子高生の性的価値を当然に前提としていて本人たちも内面化してて、あまつさえ大人ポジションの吟までそういうこと言ってて倒錯がすごい……。
保奈美さんとかあの媚び媚びの色気で「恋愛に興味ない」とかさ! やってるのにさ!
そういう微妙に一貫しない作品でしたね……そう考えると南極行き切符獲得エピのありえなさも「地に足ついてるのにやっぱりそこちぐはぐじゃない?」と思えてくる。


ここじゃないどこかはどこにもない、夢見たどこかはただ現実の地続きだった。
辿り着いてしまえば幻想は霧散する。
「南極に来たら泣くんじゃないかって思ってた」って聞いたとき、えっそこまで言及するの? すごくない? って思った。
幻想の崩壊、現実は現実でしかないことを突きつけたのかと思ったから。が、ちがったな。