真昼の淡い微熱

感想ブログ

蒼穹のファフナーTHE BEYOND 7-9話

※アナウンス※
この記事の筆者は冲方丁従軍慰安婦像への侮蔑発言及びその後説明なしに記事を削除して発言をなかったことにしようとした対応を批判しています。






思い入れ貯金…………。
……思い入れ貯金…………。


2015年12月26日から丸5年。
5年しか経ってねえんか。もう7年くらいは経った気がしていた。

私は皆城総士の死を受け入れるのに3年かかった。
総士を見送る一騎を受け入れるのに4年かかった。それまで「俺も」ただ一言に縋り続けていた。




今はもう受け入れていたから、5年前の自分が急に救われてしまってびっくりした。
序盤15分くらいのところで救われて、あとの1時間ちょっとは涙の消化に充てられた。
ていうか2回観てわかったんだけど私ここの衝撃があんまりに強すぎて初見時残り全部忘れてたわ。
そのシーンがくるまでかつてないほど冷静にファフナーを観ており、アキレスがザルヴァートル化しても「ははっまあ一騎生き残らせちゃったらこうなるしかないやな」くらい距離を引いて笑ってたんだけど急に引き戻されたよね。




それでいいのか?
一騎と総士が好きだし、もう私は誓って生涯一騎と総士以上に「ふたり」を愛せないし誰にもこの感情を侵されたくない。一騎と総士が好き。
こんなに愛おしい。
一騎と総士が好き。
あの一騎、これこそ唯一私の欲したもの。この「総士」が何より聞きたかった。5年前に。
一緒にいってほしかった、違う、一緒にいきたいと思ってほしかった。総士ただひとりを求めてほしかった。死さえもふたりを分かてない、そういうふたりであってほしかった。
地平線を越えたいと、役割を終える時をずっとずっとずっと見計らっている、そういう一騎が見れた、それだけが私にとってのBEYONDの意義だ。
幽霊総士を見つめるあの複雑な笑顔はEXODUS26話のリベンジだろうか。それともあのとき一騎に己の行く手を清々しく受け入れさせるため禁じた複雑さをここで解禁してしまったのだろうか。
どちらにせよ確かに求めたものがそのまま与えられたのだ。



であればこそ、それでいいのか?
総士を引き留める、それだけで克服したことになろうというのか?
一騎は総士を引き留めるだろう、けれど自分は甲洋と操に引き留められなければいってしまうだろう。

ファフナーは「一騎と総士」を越える気概が本当にあるのか?

これこそが1-3話で期待が膨れ、4-6話以来猜疑している問題である。
問いの回答は「なし」だろうな。



ちぐはぐである。
ファフナーファフナーを越える気概があるんだろうか。

零央と美三香の僚と祐未オマージュ。
びびった、死ぬかと思った。
紛うことなき「ファフナー」へのアンチテーゼである。
竜宮島の歩みを知らない新芽・総士だからふたりを犠牲にせずにいられたと、あまりに率直なBEYONDのテーマ性。

4話あたりまでだったら「いやここでこそ総士が助けるだろう」と余裕こいて信じられたのだが6話がお粗末な出来だったから「本当に死ぬかもな」と焦った。
そのための千鶴さんの犠牲か……と一瞬納得しそうになったけどいやいや物語として興醒め(雑な死)と引き換えの熱さ(ROLアンチテーゼ)なんて割に合わんわ。

ちぐはぐなんである。

過去を乗り越えようとする一方で物凄く過去に拘泥している。セルフオマージュの嵐、もはや完結している関係性のキャラ同士の会話。千鶴さんの死、ファンの思い入れ貯金に全面的に甘えているからな。
おかげでせっかくの"BEYOND"が部分的な局面に留まってしまっている。

要所要所は面白いのだ。
過去の超克だから。私が求めたファフナーTHE BEYONDだから。積極的に過去を塗り替えてほしいと。
だからたぶん零央と美三香のところも2019年春クールに週に一回見ているのだったらめちゃめちゃ興奮しただろう。
でもあの残念すぎる6話のあと1年経ったしこれ5話あたりの話じゃなくて12話中の9話なんだよな。


総士の活躍が限定的なんだよ。
だからテーマが行き渡らない。
なぜ限定的になってしまうかといえば描かねばならないキャラが多すぎるから。これは前回の感想にも書いた。
にもかかわらず、咲良と剣司にしろ一騎と真矢にしろ一騎と史彦にしろ甲洋と操にしろお前ら何回同じ会話繰り返すんだよと。
容子さんの悔恨もルヴィの期待も甲洋の勝利条件説明台詞も聞き飽きた。
「またそれ?」なのである。特に剣司と咲良。しかも咲良はもう復帰しないということで「待つ女」の役割しかなくなってしまった。

ていうか総士とマリス、一騎とレガートとかもなんか会話が間延びして見えたよね。会話劇による発展がないので。

キャラが増え取り立ててドラマも作れず、総士が疑われたけど自分の発見により通信傍受の真相が判明する流れも書き割り的でもたもたする。

EXODUS17話の鏑木家とウォーカー正体判明~あたりもそんな感じだったけどあれは主軸カノンのドラマがあったからそこまで気にならなかった。
今回肝心のドラマが弱いから。

なのにキャラの多さによって尺が削れた結果へスターはもとよりマリス・マレスペロ・ケイオスが後景化してしまっている。(ダンゴムシの足みたいなコートが風になびくEDうける)
アレクサンドラ、君には真矢の対抗馬として期待してたけど9話時点でまさか自己紹介のみとは。

いや……BEYOND2クール分やってよな……?感……。これが2クールの9話だったらここまで言わなかったよ。




いや総士ふつうに制服着るやん。
キービジュでアルヴィスコート着てるの、竜宮島勢に吸収されてしまうのではないかと疑念抱きつつも単にエレメントの証かな?と結論保留にしていたのだが、冬になってみんな着てしまったのでこれは決着がついた、総士はもはや竜宮島の住民です。
竜宮島に降り立ったこともないのに。
総士は丸きり「さらわれて取り返された竜宮島の一員」に過ぎない。

「おかえり」を言ってもらえないことを口にできるようになってよかった。
なんだろ、このセリフを言わせることはできるのに、真壁一騎への憎しみを大人に受け止めさせることもなく、貢にちゃんと謝らせもしない。
ほんとふしぎなんだけど佐喜さん舞さんが貢を止めることはできるしわざわざ疑う必要性も細々説明させて「ここで貢が疑うならそれなりの説得力が必要」とわかってる風なのになんであの謝罪でいいと思ったんだろ?

「なんで僕の妹を殺すのはよくてあいつはダメなんだ」への回答が「憎んでも殺さず」しかないのだ。
エメリーの形見を投げ捨てられた美羽の一筋の涙を史彦の「復讐は我々の目的ではない」に接続させるだけで終了なのか?

憎しみを殺し合いに発展させない。
これがBEYONDのテーマのひとつでもあるんだろう。
でも憎しみをどう昇華するかには、もう、描写を割かねばならない時代でしょう。
「復讐は何も生まない」で皺寄せ食らった個人の怒りをそのまま放っておける時代ではない。放らないで、怒りは怒りとして大事にして、それでも復讐に向かわないようにするために、を模索しなければならない。
既にハイレベルに憎しみを昇華してる作品いくらでもある。
今回それをやろうとする節はあって、だから総士に「怒らなければならない」と言わせているのだろうが、事ここに至っても真壁一騎への憎しみはおざなりなままなんだよな……それがちぐはぐ。
美羽の涙で回収できる憎しみではないだろう。
一騎から総士への想いはここでも描写され、地平線から救い出す。が、総士から見た困惑はどうなるんだ。
「僕の名前だ」、そうでしょう?
それこそ総士でしょう。なのに。
そうそう美羽との喧嘩もなんか主人公とヒロインの関係性としては古臭すぎていっそ新しいんだけど異なる他者同士の対話は喧嘩の体裁を取るのが一番描きやすいんだろうなあ。
いや、古いよね……。


甲洋と操を持て余している。
キービジュにもおり、ムビチケにも新規絵がいたのに肩透かしですな。まあいいけど。

てかあそこの真矢脱がせてたんかよ。
あのさあ!!!!!!
真矢が脱ぎ要員になっている、お前さあ、まじでなんなの?
ファフナーさあ、建前くらいあったろ、いやその建前もそれはそれで白々しくて嫌だったけど乙姫ちゃん(芹ちゃん)の裸とかカノン体重計裸とか真矢捕虜パイロット剥奪裸とかその前段としての「お医者さんでしょ?」とかそういう取り繕いすらもはやないのか。
俺の真矢がサービス要員にされていくの本当に嫌。
「とりあえず女に脱いでほしい」需要しか満たさない「とりあえず女を脱がしとかなきゃな」供給のためだけに脱がされる真矢が不憫でならない。
美羽を脱がさないようにするために真矢が脱がされていく。
ふざけんな。
(「お医者さんでしょ?」には初見時も怒っていたのだった→EXODUS2話


真矢、あなたはEXODUSで3人目の主人公だった。
私は嬉しかった。
「ルヴィ、総士、美羽」をなんの迷いもなく選んでくれて。
あなたが選んだ未来の価値だ。あなたのエゴを押し殺すのではなく優先順位が定まった結果だ。
いや「一騎が平和をやれないのはまだ悲しいかもな」くらいは思ってたにせよ未だあんな一騎くん一騎くんだとまでは予想してなかったがな。一騎が最優先ではなくなったのは今回ではっきりしたね。


今まで丁寧に築いてきた感情と関係を変化させることができない。これが致命的に物語を停滞させている。

地平線の向こう側にいる総士への想いを寄せる一騎を描写したことと、真矢が未だに一騎くんべったりなことは地続きなのだ。
またその延長線上に「今までのファフナー及び「一騎と総士」を越える気概が見られない」がある。

だからこそ5年前の私が救われてしまったことを以て問う、それでいいのか?
変化を肯定するファフナーが他者への感情の変化をやれないんだからそりゃちぐはぐにもなろう。
一騎に始まる新OP、一騎に終わる新ED。
ファンや石井真の「変わってほしくない」切望よ。
いいんだよ全然こっちは4年かけてでも最終的に受け入れるんだからさあ、その切望に制作側が寄った時点でBEYONDではなくなる。
こうして竜宮島は総士に負かされるのではなく総士をお茶目な和ませ緩衝材として取り込んでゆく。
保守寄り漸進左派を見ているかのようだ。あるいは革新派気取りの保守。
我々が隈なく眺めてきた「竜宮島」を捨てきれない。
一緒に劇場出てきたライト層らしきファンたちが「レフトアンドライトってほんとつらいよね」とひとしきり盛り上がっていたのを聞いてBEYONDの敗北だなと思った。あの9話を見てもROLには勝てない。
まあ長期シリーズの宿命でもある。
「第二次L計画」、さすがに今さらROLやりはせんだろと思ったけど不穏なタイトルですねーと煽って煽られていたものな。



アショーカに守られるブルギルム隊ふつうに感動してしまったな。
あとめちゃめちゃ久しぶりなケーブル通信とか真矢の泣き方とか。
こういうのを思い入れ貯金という。


BEYONDはファフナーが満を持して辿り着いた「対話」ど真ん中がテーマのはずである。おそらく……。
人類とフェストゥムの。
「人類側」にエレメントたちや美羽等フェストゥム寄りの面々がおり、「フェストゥム」側に人間のマリスがいるのもまたファフナーが耕してきた畑。

しかし総士の美羽への全体主義批判、竜宮島への犠牲批判はフェストゥム代表マリスと人類代表史彦の対話まで広がってゆかなかった。
「閉じこもって自分たちだけ平和でいるのが竜宮島ならば僕は島のあり方を否定する」、『THE FOLLOWER2』の崇高さはいずこかね。
EXODUSで世界が開けたあとはもう5000人の新たな入植者を代表するキャラすら登場させず、また閉じこもってしまった印象を受ける。
史彦のマリスへの言葉がこれまた完成された史彦というキャラとして発展性のない「憎しみで争わず」姿勢なので、それまたやるの?
無印の対ミョルニアで乗り越えただろうて。千鶴さんがいなくなった意味がなさすぎる。
マリスが噛ませにしか見えないのもあいまってただの史彦の演説である。

マリスと史彦の対話がこれまでの焼き直しなのでせっかく総士が新たな価値観を持ち寄ってきても波紋広がっていかないんだな。
零央と美三香の救出は間違いなく過去からのBEYONDなのに、肝心要のフェストゥムと人類の対話にBEYONDならではの要素がまるでないから対話今いち進まない。
なんだろ~~。
言いたいこと言い切れてない感がすごいぞ。
もやもやするね。

総士は一体なんなのか。


まじで思い切ってマリスの前提描写丸々カットしてるので零央とマリスのやりとりとかようわからんし。
あ、零央と美三香、4話あたりでもうすっかり「総士の師範」になってるんすね。



はあ~。
見てて思ったけど美羽と総士異性愛になろうがもうどうでもいいや……。
異性愛になったら「古ッ!」とは思うだろうし、ならなかったら「よかったファフナーもまだギリ時代に追いつける……」と思うだろう。
けど、この私特有の、誰にも共感されないだろう、居場所を剥奪されるような心臓ぎゅっと縮まる恐怖はこのふたりにはないなと。
もう私は受け入れているよ一騎と真矢が出るたび出ないたび自分の存在が脅かされる恐怖をよ。
もうここまできたらしゃーねーもん。
理屈じゃなくて体がもう怖いんだもん、一騎と真矢が異性愛を獲得しやしないかと。
5年引きずってんだからもう変えらんねえよ。
一騎と史彦の新居に真矢が肉じゃが持って現れるそれだけで全身で警戒してしまう身が疲れる。それだけ私はファフナーに一度自分の期待を全部預けてしまったのだ。
真矢が「一騎くん……」と呟いた直後に一騎が「総士!」と叫ぶ姿に泣いてしまう自分のままだ。仕方ない。
無印15話ラストを初めて見たときの「え?いいの?異性愛を前提にした同性関係じゃなくて、異性愛を踏み台にした同性関係をくれる作品なの?」の戸惑いを忘れるはずない。
もういいよ。私は真矢が好きじゃなかった。真矢を「踏み台になってくれる有り難い女」としか見ていなかった。今もそういうところは捨てきれないのだ。もういい。
もう、ファフナーにこだわらなくてもいい。今にきっとクィアベイティングでない、好きになれる作品が現れる。SF的で哲学的で情緒的でハイコンテクストで読解させてくれる、かつ同性愛を描く私好みの作品は世界のどこかに生まれる。そう信じられる時代になってよかった。
ファフナーしかなかったからこんな恐怖に怯える悲しい体になってしまったのだ。
ファフナーに頼らなくなる日が来るならば。

なんかでも今回は「もうこれ以上一騎と真矢は変わらないかな……」と思えたかしらね。
それがBEYONDの発展のなさに結びついているのが悲しい哉。