真昼の淡い微熱

感想ブログ

ここがウィネトカなら、きみはジュディ/編:大森望

時間SFがこんなに人気なのって日本人特有なんですか。
なんでですか。
私も例に漏れず時間SFには目がないよ。
とか言ってこれ1年積ん読してたけど。
傑作選というか、入門編って感じだった。私のような初心者にやさしくバラエティに富んでいて面白い。
「時間」のSF的解釈ってこんなに色々あるんだー!と感動。


『商人と錬金術師の門』テッド・チャン
テッド・チャンの作品、全部訳されてるんだっけ?読もう。
この独特な世界構築……美しい。
逸話を紡いで、螺旋状にまとめあげてく職人技。
読者の脳内にひとつの部屋を作り、決して忘れさせない愛しい傷をつける、そういう上手さ。その傷を撫でていたい……。
まあオチは別に。
内容に言及せず思わずポエッたけど絶対忘れないからメモはいいや。

『限りなき夏』クリストファー・プリースト
活人画が蔓延る世界、恋人たちを閉じ込めた時間の美しさ。
結末はわかりきっていたけど、活人画の設定説明を他の活人画のエピソードを交えて語り、伏線を張っていくことで盛り上がるのが凄かった。
特に最後の爆撃機パイロットに近づく凍結者のシーン。
ただ恋愛ものの凝った心理描写に慣れてるから中身のないラブロマンスは全くもってつまらない。

『彼らの生涯の最愛の時』イアン・ワトスン&ロベルト・クアリア
時間のしくみ解釈はよくわかってない……けどマックて。デブに引き裂かれる時の狭間の恋人て。笑った。
極めつけに二人とも老体セックスの末に相手の貞操奪って死ぬとか爆笑もの。
10代エレナを口説く会話めっちゃ洒落てんなと思ったら、凄くナチュラルに、
「女、それとも男?」「あなたの嗜好がどっちなのかよく知らないけど、わたしがなんとなく考えていたのは女だと思う」
って……2009年のイギリスとイタリア……なんだろうもう嬉しいな……。
いやまあトラニーチェイサーかもよ?っていう野暮なことも考えたが。

『去りにし日々の光』ボブ・ショウ
なんかスローガラスの説明だけで終わって消化不良……と思ったら、連作短編集の一作目なのね。納得。
元の『去りにし日々、今ひとたびの幻』は面白そうなので読もう。
それがアンソロの正しい読み方か。

『時の鳥』ジョージ・アレック・エフィンジャー
これ史学学んでる人には最初から説明しとけばいーんじゃん???
って思ったのは私がラストをちゃんと理解してないから?
そんなにも何が魅力だったかって、そんなん、女口説きたいだけとしか読み取れなかったんだが……。
しかし大衆をバカにしすぎ。
「過去」が存在せず集合意識の結実というのは面白い。別のやり方で売ればいいんじゃ。

『世界の終わりを見にいったとき』ロバート・シルヴァーバーグ
ブラックユーモアにくすり。「終末の日常化」。
そんなときに終末見たいもんかよって思うが。

『昨日は月曜日だった』シオドア・スタージョン
これ大好きだ!!
なるほどねー。「役者」が時の狭間へ転落。神様の視覚化。
こういう、いかにもありえそうな現実の拡張と日常への皮肉、舞台を作り上げるっていう独特な世界観と絶妙な主人公。好きだー。

『旅人の憩い』デイヴィッド・I・マッスン
なんだろう……あらすじと世界観と結末の理論はとても面白い。
集速時間。集束していく物語。突破作戦。
ただ流れていく平坦な文字の羅列は目が滑った。

『いまひとたびの』H・ビーム・パイパー
元祖リプレイもの!
だもんで話そのものは私でも指摘できるくらいの矛盾や不自然な点が。
それをこぞって指摘して今のSFが確立したのかという感慨深さ。
強くてニューゲーム、うける。

『12:01PM』リチャード・A・ルポフ
ループものはどんなに手垢付こうが何度読もうが面白い。
これまた今はもう手垢付きまくりのオチが最高。
あとこれの「時間」の解釈が一番面白い。四次元空間で交わらない二世界の反動。

『しばし天の祝福より遠ざかり……』ソムトウ・スチャリトクル
謎の宇宙人が「未開惑星」を混乱に陥れる!!
イカニモSFでそれがまずおもしれえ。
でも、長編でなく、続きがないのなら物足りないな。
設定提示と変化こそ人間、そうですか、と。

『夕方、はやく』イアン・ワトスン
奇天烈奇怪。そうね、私もお昼まで寝てるわ笑
朝の淀んだ怠惰な時間、その空気を神父の改宗という形で見せる、好き。
星新一の『午後の恐竜』のほうが面白いかな。というかこれよくわからん。

『ここがウィネトカなら、きみはジュディ』F・M・バズビイ
何よりこのタイトルがずるい。めちゃくちゃお洒落。
時間を転位するカップルの奇妙な出会いか。
リプレイでもなく、飛び飛びで一生を過ごすなら、最期はどうなるんだろう?
とある普通の一日で幕を閉じてしまうのか?
変化を望み行動し、互いのその時を祝福するの?
一九七〇年十一月九日みたいに。あのシーンの空気感好き。