真昼の淡い微熱

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期限切れの初恋/木原音瀬

最っ高……。
木原クズBLを求めて読んだら看板に偽りなし期待どおりのクズを差し出された……なんだろうこの癒しは。
案の定これも「BLを越えた」みたいなレビューついてるけど、そういうの物ともせずに今自分の書きたいものはBLでしか表現できないんだとばかりに殴り付けてくる木原さん大好き……。
ちょうど直前に読んでた別のBLが、男同士であるがばかりにちんけなプライドがかちあってどろどろになったのにとてもパワフルかつキラキラした方法で正常なプライドを取り戻しあって一蓮托生関係修復という話で「し、しんどい」と思っていたから余計に。
どこまでも噛み合わなくてどこまでもクズでエゴのすり減りあいだよ……。

ラスト、木原さんなら宇野の彼女と鉢合わせそうだなあ、鉢合わせるだろうなあ、と思ってたら最悪な形でその通りになったし、そうまでしてさえ宇野を「愛せないかもしれない」とか言う村上最高すぎて笑ったわ。


「こんなにも燃え上がるような情熱を感じるのはこいつだけだ」がさも美徳の顔をしてまかり通るBL界で真逆を行く。
雛乃へのような恋愛感情を欠片も宇野に感じないのがたまらなくリアルで……。
村上視点の宇野のなんと冴えないことか。
学生時代は村上が誰にでも分け隔てなく接しているように見えて実際やっぱり境界線があって、久方ぶりに大学でつるんでた面子+宇野で再会したときの、ノリがずれるがゆえになんとなくはぶれてしまう宇野のこの非リア感やべえ……。
宇野のこと自体社会人になってから「忘れてた」なんの慈悲もねえ!


村上が職場の先輩に相談したとき、『美しいこと』で寛末が実家の義姉に相談した場面を思い出した。
「一緒に暮らす相手は好きな人よりも楽な人のほうがいい」というやつ。
『美しいこと』ではつまり燃える恋の想い人より安心できる受けにいけ!って意味、だから今回も同じニュアンスのアドバイスか?と思いきや「受けにいくのはやめとけ」……!
そこブラッシュアップしたかー!都合のいいアドバイス→都合のいい意識変化展開ばっさり無視でとことんひねくれ読者の突っ込みを潰しにかかって有無を言わせねー!!
と思った。

だから、ラスト残りページも少なくなってあれっ別れて終わるのかなーと思ってたらこれだよ。
最後まで宇野に甘えっぱなしでその宇野が綺麗に一区切りつけてくれたのにその誠意をラスト十数ページで清々しいほど完全粉砕!!

自分から決定的に拒絶したくせに他の人のものになれば惜しくなるし宇野がどれだけ救世主だったかむごい現場に出くわさなければ気づかないし寂しいだけで彼女から寝取ってしまえるし宇野から初めて剥き身の罵倒を掛けられることで恋愛感情が芽生えるしもう……。
私は相手の気持ち一切、一切考えないクズが大好きなんだ……。
恋愛ものでは非常に使い勝手のいい「相手が他の異性と恋人然で歩いてた」展開が誤解ではなく本当に彼女で、しかも本当に彼女なのか?って宇野のこと侮ってる村上……。

そして村上だけでなく宇野も村上の気持ちどうでもいいからこそ共依存できていたエゴの関係最高すぎるわ……村上がどん底から這い出すと籠に閉じ込めておけないと焦る宇野。
初めにこれでもかと宇野のエゴを描いてくれたからこそ説得力にかなう。天使なんかいねーよ!と。
エゴの人とエゴの人の話が好き。

でも二人ともただエゴイストなわけじゃなくて、ちゃんと負い目も最低限の誠意も感謝や謝罪の心も持っているのにどうしようもない弱さがあるから憎めないんですよね。
それがないただただセンセーショナルなクズさはいらないのです。
その上で惜しみない慈悲に対して「お前は俺が好きなはずだろう?」とイライラする傲慢さの匙加減。
木原作品に特に萌えは求めてないんだけど間男修羅場村上のこの傲慢さは萌えた……。

実際のところ本当に村上がここまで堕ちていなければ絶対に交わらなかったこの関係……運命論も全否定、恋愛ものにおけるファンタジックな価値観へのアンチテーゼの繰り返しで、綺麗事につらくなったときの最大の癒し。
木原クズBLという基準で一番好きな作品かも。