真昼の淡い微熱

感想ブログ

約束/可南さらさ

いまこれを求めていた。老舗の味……。
風邪っぴきで体調最悪のなか癒しを求めて朝3時から6時ごろまで読んでたので感情がぐらぐらで、めちゃくちゃ泣いた。
おかげで体調回復したのでBL小説テラピー。


全部どこかで見た記憶喪失ものなのに、その全部が丁寧で王道のよさを実感させてくれる。
可南さん、どうしようもなく求めてるのに気持ちを抑えつけているキャラ書くのうまいな。『左隣にいるひと』好き。

記憶喪失って誰も悪くならない切なさを書くのに手頃なんだよな。
颯が紳士的スパダリで非常によかった。
ファーストキス、再会後のファーストキス、どちらもそっと労るようなやさしさがあってかわいい。
激しい情事より、猫と遊んだり埃っぽい教室の隅で自然に恋人になっていったり屋外膝枕キスできゃっきゃしたりの、ほのぼのとした日常がきらめくBLが好きになってきたな……年のせいかな。
夏祭り一緒に行けないで未練になるやつかと思ったら行ったあと、だった。意外と記憶なくすまでが丁寧だった。
祭りで屋台にまぎれ手を引くふたりの絵が浮かんできたとき、勝ったな、と思った(可南さんの勝ち)
個人的に攻めのためを思って身を引き失踪する受けが好きじゃないので、ぎりぎり有也は「身を引こうとしたが欲深いので無理だった」になって安堵。

記憶喪失、相手への態度ががらりと変わってしまうものは思い出してほしいと思うけど特に変わらないものは思い出さなくてもいいんだなあ。


BLって基本個々人の性癖に刺されば受容される、刺さらなければ描写の物足りなさに目がいくジャンルだと思う。
そういえば、「男性向けAVは前提を省くけど女性向けAVは前提のドラマを重視する──と元来考えられていたが最近は女性も文脈に慣れてきたのか前提省くものも出てきた」って話を聞いたことがあるんだけど、BLもその域にあって、BLの文脈に慣れているか、性癖がマッチするかどうかが重要なわけで。
その上で「文脈に甘えてしまって描写不足だからつまらない作品」と「文脈を踏まえつつ最低限の描写で読者に感情を補完させうる作品」がある、と私は思う。
『約束』は後者なんだよなあ。性癖に刺さらない人は描写不足と受け取るが、刺さる人なら補完できる。