2018年1月発売の新書。
主に2015年の調査結果を分析している。
現代日本の5つの階級
1.資本家階級
2.新中間階級
3.正規労働者階級
4.アンダークラス
5.旧中間階級
資本主義社会では生産手段が少数に集中して所有され、あとの多数は自分で生産手段を所有しない。
資本家は生産手段を所有する側。経営層。定義:従業先従業員数5人以上
正規労働者階級は所有せず労働力を提供する側。正規の販売職・マニュアル職・単純事務職。
旧中間階級は自営業・農業等、生産手段を所有しながら自ら労働する。定義:従業先従業員数5人以下
新中間階級は被雇用の課長以上の管理職・専門職・事務職(ホワイトカラー)。
アンダークラスは非正規被雇用者。
(※事務職の扱い:市井でいう総合職・一般職の別ではない。まとめて事務。賃金に鑑みて男性の事務は新中間階級、女性は労働者階級として換算されている)
各階級について
1.資本家階級(就業人口の4.1%)
貧困率4.2%。
自民党支持率47.4%。
2.新中間階級(就業人口の20.6%)
貧困率2.6%。官公庁就業率20.6%。
高等教育を受けた人の比率が突出して高い。資本家階級よりも。
自民党支持率27.5%。(必ずしも保守ではない)
3.正規労働者階級(就業人口の35.1%)←最大
4.アンダークラス(就業人口の14.9%)
資産が全くない人31.5%。
自民党支持率15.3%。
野党支持率が自民党支持率を上回る唯一の階級。
5.旧中間階級(就業人口の12.9%)
自民党支持率35.5%。
1950年には就業人口の58.5%を占めて最大人口だったが、縮小と共に生活も衰退ぎみ。
女性の階級について
女性の労働賃金は総じて低い。
生活や意識は夫の所属階級に左右されやすいため、本人の階級×配偶者の有無・階級で30パターンがある。
その中で人数が多いのは、
①本人パート主婦×夫労働者階級(10.7%)
②本人専業主婦×夫労働者階級(10.0%)
④本人正規労働者(7.9%)
⑤本人専業主婦×夫新中間階級(7.8%)
⑥本人パート主婦×夫新中間階級(6.7%)
以下、女性総人数の6%以下。
2.本人専業主婦×夫資本家階級(1.6%)
平均世帯年収1226万円。
生活に満足している人、自分を人並みより上と考える人の比率最高。
自民党支持率37.0%。
性役割・性規範共に突出して保守的。
子どもの教育に熱心で一番金出す。
3.本人専業主婦×夫新中間階級(7.8%)
平均世帯年収691万円。
夫は専門職・事務職が多く、過半数は大企業勤め。
生活に満足している人、自分を人並みより上と考える人、自分を幸せだと考える人いずれも高い。
でも自民党支持率高くはなく中間。
性役割は保守。
教育熱心だが学校外教育への出費は世帯年収高い層に大きく劣る。
6.本人パート主婦×夫正規労働者階級(10.7%)
7.本人専業主婦×夫旧中間階級(3.2%)
夫の職業は職人の個人営業的なものが多い。
生活に満足している人、自分を人並みより上と考える人比率そこそこ高い。
子どもの進学に関心は薄い。
8.本人新中間階級×夫新中間階級(5.1%)
本人も夫も学歴が高い。約95%が専門職。
自分を幸せと考える人比率一番高い。
自民党支持率19.2%。
性役割・性規範に批判的。
教育意識熱心で学校教育外での教育費も高い。
大卒上級専門職と看護師、保育士、介護士等では格差がある。
9.本人新中間階級×夫労働者階級(3.7%)
高等教育を受けた人多し。8割が看護師・保育士。
平均世帯年収728万円。平均個人年収は低いが、夫と同等以上の収入ある女性は際立って多い。
自分を幸せだと考える人の比率真ん中より下。←8.と真逆
性役割には抜きん出て批判的。
だが平日の平均家事時間311分。フルタイム有配偶女性としては長い。
10.本人正規労働者×夫新中間階級(3.0%)
生活に満足している、自分を人並みより上と考える率は中間よりやや上。
教育熱心で関心は最高値。学校外教育費は資本家・資本家の主婦たちより低め。
11.本人正規労働者×夫正規労働者階級(3.9%)
性役割意識は平均的。高い教育にはほぼ関心なし。
12.本人旧中間階級×夫旧中間階級(4.1%)
平均世帯年収688万円。
豊かだが格差もあり貧困率高め。
自民党支持率33.3%。
性役割意識はやや保守だが、同性愛と子どもを産まない婚姻関係への肯定率は突出して低い。
教育には関心なく、金もあまり出さない。
~配偶者なし女性は全体的に自民党支持率が低く、支持政党なし比率が高い~
13.本人新中間階級 配偶者なし(5.1%)
14.本人正規労働者 配偶者なし(7.9%)
平均個人年収299万円。
自分を幸せだと考える人比率低め。
性役割意識は中間的だが、同性愛と子どもを産まない婚姻関係への肯定率は突出して高い。
収入がないため親と同居の人が多い。
15.本人非正規労働者 配偶者なし(8.3%)
貧困率42.8%。子ども同居は6割近く貧困。
14.の女性とは違って親と同居してても貧困率が高い。少ない収入で親を支えている人が多いため。
自民党支持率12.6%。←最低
性役割意識は中間的。
16.本人無職 配偶者なし(40代以上のみ)(5.8%)
夫との離死別者7割以上。一人暮らし42.3%。
4・50代に健康の問題で就業不可能な人が多い。
自民党支持率中間。
女性たちは各階級として生まれ死んでいくわけではなく、異性の配偶者を得るかどうか、配偶者の階級、フルタイムの仕事を続けるか、子どもがいるか、配偶者との離死別を経験するか各ポイントで大きく岐路が分かれる。
が、最終的に16.の老いと貧困にたどり着く。
社会認識
☆格差拡大・貧困化認識
非正規労働者(女性ならかつ配偶者なし)が社会の貧困化を強く認識している。
次いでパート主婦・旧中間階級と続く。
資本家階級は格差拡大を認識しない。
新中間階級は以前に比べて格差拡大認識比率が高いが、格差が大きすぎるという認識に「とてもそう思う」はぐっと減る。
☆自己責任論
仕事に自分の裁量が大きい資本家階級と旧中間階級は「努力しさえすれば誰でも豊かになれる」「貧困は自己責任だ」という自己責任論支持者が際立って多い。
新中間階級と正規労働者は約40%が自己責任論を受け入れている。半数以下ではある。
アンダークラスは自己責任論弱め。
一番弱いのはパート主婦。
アンダークラスが一番再分配を支持する。
次いでパート主婦、旧中間階級。
資本家階級・新中間階級・正規労働者は同程度に支持しない。支持する比率はいずれも40%に満たない。
☆支持政党
他政党支持:格差拡大認識。所得再分配を概ね支持
支持政党なし:格差拡大を認識。自己責任論に否定的。だが所得再分配を拒否。
排外主義軍備主義と格差意識の対応関係
自民党支持者は排外主義的かつ軍備主義。
他党支持・支持政党なしの排外軍備傾向は差はあれど自民党支持者の突出さに比べるとそうでもない。
平等主義と平和主義(非軍備主義)は新中間階級パート主婦と旧中間階級で結びついている。
平等主義―平和主義―多文化主義が並ぶ「伝統的左派」の傾向があるのは新中間階級のみである。
アンダークラスにおいては平等主義と排外主義が結びついてしまっている。
注意すべきは、アンダークラスが他の階級に比べて特別排外主義という結果が出ているわけではない点。
排外主義者比率自体は新中間階級、正規労働者と同程度の割合。
全体として排外主義傾向が強いのは資本家階級。かつ、女性よりも男性。
これはネット右翼が経営層・自営業者に多いという調査結果と一致する。
一番排外主義傾向が弱いのはパート主婦層。
格差縮小への妨げ要因と新中間階級クラスター分析
・資本家階級
格差拡大を認識しても所得再分配を支持しない。
さらに自己責任論支持するほど再分配を拒絶する。
・パート・専業主婦・アンダークラス・旧中間階級
格差拡大を認識すると所得再分配を支持するようになる。たとえ自己責任論を支持していたとしても。
→格差拡大を知らせれば格差縮小へつながる
・新中間階級・正規労働者
格差拡大を認識すれば所得再分配を支持する。
けれど、自己責任論が強いと再分配を支持しにくい。
→格差拡大認識広め、自己責任論の誤りを説得する必要がある
新中間階級内訳
1.穏健保守(38.8%)
2.自民党支持のコアグループ(14.4%)
格差拡大認識薄い、所得再分配拒絶。
自己責任論、軍備主義、排外主義を強く支持。
3.リベラル派(46.8%)
格差拡大認識強い、所得再分配支持は27.1%だが比較的高め。
自己責任論、軍備主義、排外主義を支持しない。
女性比率、専門職比率が高く、管理職比率が低い。
→格差縮小へ向けてこのグループと結託する必要がある
5年前の調査結果である。
2020年のCOVID-19流行により、自営業/家族経営・従業員数5人以下の旧中間階級、サービス職・マニュアル職等の正規労働者・非正規労働者・パート主婦らが経済的打撃を受けている。
日本の就業人口の最大62.9%といえるか。(さすがにそこまではなかろうが)