真昼の淡い微熱

感想ブログ

『福祉政治史 格差に抗するデモクラシー』/田中拓道 『社会変動の中の福祉国家』/富永健一

ブレトンウッズ体制
ドル本位制下である程度自由な経済政策と貿易が行えるようになった国際秩序体制。
自由貿易を支えた金本位制では各国景気による自由な経済政策が打てない。金本位制が行き詰まった世界恐慌後の保護貿易はそこからはずれた国を経済苦境に陥らせ大戦に。
その反省として、ドル本位制で自由貿易GATT体制)を支える・ドル準備金が不足したらIMFから融資・貸付や融資を行う世界銀行の設立の秩序が編成された。
自由に金融経済政策が打てるため、福祉政策できる。
ブレトンウッズ体制の元で自由な財政政策を行えるようになったのをきっかけにした、大量生産大量消費の労使協調とそれを補佐する国家の循環による体制。
労働者が単純大量生産→使用者が高賃金約束・国家が失業や病気を保障→労働者が消費者になる→経済成長
ブレトンウッズ体制とフォーディズムの崩壊
ブレトンウッズ体制とフォーディズムにより、経済成長と福祉国家が成立する。
しかしアメリカがベトナム戦争を始めると財政赤字拡大。ドルの信用不安からドルと金の兌換が相次ぎ兌換停止(ニクソン・ショック)。
ドル不安続き、各国、変動相場制へ移行。
また耐久消費財が行きわたると需要が細分化し、画一的生産ラインでは対応できない。規格化への反発が生まれ自己決定権が重視される時代に。
こうしてフォーディズムも機能不全に陥る。
資本移動の自由化・IT発達・フォーディズムの崩壊により、世界はグローバル化へ。

福祉は市場経済の補完的役割。個人の競争重視する小さな政府志向。
自由主義ジームにおけるアウトサイダーは市場労働弱者の失業・貧困層
伝統的中産階級が支持基盤の職業別社会保障。女性家事労働を前提にした男性稼ぎ主家族モデルを利用した家族ー会社の相互扶助に対し国家が補完する。
保守主義ジームにおけるアウトサイダーは壮年男性以外。女性、若者等。
労使協調を図る強いコーポラティズムによる受益層の広い普遍的社会保障


自由主義ジーム国の場合】
①公的福祉の受益層が小さい。そのため福祉を攻撃する言説が中産階級以上に受容されやすい。
②市場原理重視が受容されやすい伝統。
③二大政党の競争が、アウトサイダーを取り込む支持拡大ではなく、中産階級の支持奪い合いへ向かう。

レーガン政権・クリントン政権で、法人税減税・累進課税緩和・労働規制緩和・金融規制緩和のサプライサイド、富裕層援助と貧困層の給付削減と就労強制。
(トリクルダウン、起こらず)
政治への富裕層金融業界の影響が高まり、中産階級の影響が衰退。金融主導型レジーム(ステークホルダーを考慮するのではなく株主利益を優先し、短期利益のために労働規制緩和・労働コスト引き下げ)が進む。
無保険者への補助金等再分配を目指したオバマ政権も金融業界の反発を食らうし、分断修復ならず、トランプ政権へ。

イギリス
貧困・失業層に就労を強制する方向。
児童貧困率は下がった。

保守主義ジームの場合 ドイツ フランス】
経済が停滞しても、社会保険の職業ごとの分立・受益層の広さ・男性稼ぎ主モデル・分権的な政治制度によって、福祉縮減や労働規制緩和が困難だった。労組や男性の反発や国家意思決定の壁により。その皺寄せでアウトサイダーが就業や社会保険から排除される。
ドイツでは、意思決定プロセスの集権化でトップダウンで福祉削減。給付と就労を結びつける。女性を就労へ促す保育所整備と育休短縮・手当の増額。労働時間柔軟化・フルタイムとパートタイム(社保有)選択制。
フランスでは、EU統合とグローバル化アウトサイダー問題を重視する社会運動が上手く政策プロセスに関与し、左派労組が後退し、規制緩和したい使用者側も合流し、改革着手。
年金制度縮小。医療保険はより普遍化。受益層拡大しつつ支出削減。家族政策は様々なライフスタイルに合わせた自由選択化。

受益層が国民全体である普遍主義。
「国民の家」理念を共有した労使協調コーポラティズムと就労原則をもとに競争的な経済政策でリソースを確保。
バブルが弾け失業率が上がり、福祉に依存する国民が増えると新自由主義転換が図られるが上記の理由で挫折。
五大政党の中で社民党が支持層拡大のために女性議員増やし(他党も倣う)公的サービス拡充。
ただ年金支出を削減し、民営化により財政削減し、補助を増やして就労を促し(自由主義ジーム国とは異なり政策支出はする)、突出した高福祉国ではなくなる。
就労原則と階級を越えた「国民の家」理念が経済を支えていたので、これを共有できない移民が増えると普遍化しにくい。

【日本の場合】
公的福祉は先進国最低水準で乏しいまま縮小路線に舵を切る(つまり社会権力構造は自由主義ジーム的)。
その代わり企業福祉が充実した(家族扶養、低利住宅融資、企業年金、退職金、安定雇用)ため恩恵を被るインサイダーと網から漏れたアウトサイダーの分断を生む。(保守主義ジーム)

戦後、民間・自営・地方農業ごとに区切られた生活保障。
労使関係は使用者優位。
自民党は左派勢力の対抗として民間大企業だけでなく幅広く利益分配(公共投資補助金、保護規制)をした。
(民営化・福祉縮小の中曽根政権は新自由主義へのレジーム転換を行ったというよりもそれまでの小さな公的福祉、男性稼ぎ手モデルの企業福祉、保護規制を強化した)

バブルが弾けると、以上の福祉体制の問題が顕在化する。
すなわち使用者優位で、生活保障が区切られ、かつインサイダー/アウトサイダー分断があったため、公的福祉引き下げや保護・労働規制の緩和に人々が一致して対抗する術を持たなかった。
また政治はこの低成長経済状況でレジーム転換の必要に迫られ各政権は「(利益誘導腐敗政治の)政治改革」を掲げたが、肝心のレジーム転換ビジョンに結びつくことなく立ち往生してしまった。
具体的には以下。
90年代の政権権力強化を下地に小泉政権新自由主義改革をしたが、小泉のトップダウン的やり方は属人的で他では通用できず、また新自由主義が党内合意を得られないまま福田政権(社会保障拡充のための消費税増税)・麻生政権(財政出動による経済成長路線)に転換した。
民主党政権では「人への投資」を掲げたが、子供手当・高速道路無償化・農家への保障等は支持層再編(アウトサイダーの社会運動との連携)を伴わなかったし、官僚をコントロールできず消費税増税を決定し、挫折。

・先進諸国は戦後すぐ福祉拡充したのになぜ日本は高度経済成長にもかかわらず1973年まで経済優先で福祉後回しだったのか
①占領主アメリカが福祉国家志向じゃなかった
②高齢者が少なかったため年金介護の行く末が問題視されなかった
③高齢者介護はイエの中で行われてた
④各家庭に福祉を担う専業主婦がいた
⑤地域コミュニティも残存してた

1973年にようやく世界の波に乗り福祉拡充していったが、この年石油ショックが起こり縮小へ転換。その後はレジームを形成できずに縮小路線をゆきつつ行き当たりばったり政策となる。(90年代には介護保険も整備されるなど拡充もあるので、行ったり来たり)


【格差への対応】
アメリカのように所得格差の大きな国ほど再分配が小さく、スウェーデンのように所得格差の小さな国ほど再分配が大きい。
なぜか。
社会民主主義ジームでは再分配の受益者が低所得層に限定されず、中産階級も含まれるため、再分配支持層が厚くなるから。
 でも、別にスウェーデンの再分配支持率は他国と比べて高くない。
小選挙区制の国では右派政権が成立し、再分配は小さくなる。右派はH層重視で課税も再分配も少なく済み、左派はL層重視でHM層に課税するため、M層は右派を選びやすい。
 比例代表制の国では中道左派政権が成立し、再分配が大きくなる。H(を代表する)党とM党で連立政権を組めば再分配が少なくなるが、M党L党で組めばH層に課税しLM層へ分配する政策になりやすいため、M層は前者を望み中道左派政権になる。
③多様な人種・民族が共存し、公的福祉が特定の人種に偏る国ほど再分配支持は小さいから。
 (というかこれ社会が分断されているほど……といえるのでは)

【新たな社会的リスク対応】
少子化・男性稼ぎ主モデル外の世帯増加・産業構造転換により、従来の製造業従事者リスク(病気けが老齢失業)の他に新しいリスク(福祉の必要性)が生まれる。

保守主義ジーム国でも、左派右派政権の違いではそれら対応のための政策に大きな違いは生まれないが、影響大なのは議会における女性代表の数。(保守主義ジームのフランスの育児支援転換はこれによる)
高齢化による年金支出増大リスクが認識され始めたあとの国は育児支援と高齢者支出が「競合」する。