真昼の淡い微熱

感想ブログ

チキタ★GUGU 全8巻/TONO

しみじみと良い話だった。
しみじみ、がよく似合う。

3巻くらいまで話が見えず、キャラも見分けつかないわりに関係性が複雑なので読むのに1年以上かかった。
「ラー・ラム・デラルが人間の感情を少しずつ学んでいくんだろうな」以上の展望が見えず……。

しかし3巻も後半になるとあとは一気でした。
なんか大人になってから読んでよかった話だ。読者30代くらいを想定してるってあとがきにあってそうだろうよと思った。

クリップがパイエに「人間を憎んでいるから虐殺したんだろう」と言われて勝手に理解した気になるなと反発するんだけどあとから自分の憎しみに気づく、とか、そういう描写が前は苦手だった。
人の言いなりになるなんて悔しくないのかと悲しかった。それを代弁するためにチキタが配置されている。
でも、今だから、ああ君は憎かったんだね、初めて気づいたんだねと愛おしくなる。
チキタに近いと思われた彼は、そうではなくなった。それは成長でもあり、安らぎでもあり、揺らぎでも決別でもあり。

「親しい人を殺されて憎い」と「妖と親しくなったから人間を喰わせてやりたい」が並列する稀有な漫画。

ニッケルの「自分以外の誰かのために」のストレートな幸福とかも今だからしみじみと感じるよ。
人間を喰わせてやりたい、も結局同根で。
ペトラス皇帝の「人のため」もまーったきに一緒。
幸福も狂気も紙一重。だから自己中心なパイエすらも愛らしいのだ。

ラー・ラム・デラルの「百年経ってお前を失うことが怖い」ってのも感情の学習だけど普遍的な愛別離苦で唸る。

バランスの死に際の「残るのは 会えて良かった」がいちばんしみじみ良かったなあ……。
「仕方ねえ」になるの、わかる……わかるわ……俺もなる……。
子どもを捨て駒に使う山賊に殺られるというディティールもいちいち凄まじいんよ。
あ~~確かに、少女漫画だこれも……運命の受容……。