真昼の淡い微熱

感想ブログ

機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ26話~50話

クーアト……結婚おめでとう………………
の気持ちで書き出しました。どうしよう。
一期の感想読んだら「ハーレム中の百合は好きです」という余裕気取った文言が入っておりましたけどおまえ……そうだよな2016年初頭のおまえは気取ることしかできなかったんだよな気取ることで自分を守っていたよなでもおまえはわりとクーアトに参ってたよな15話の言葉のいらない信頼関係めちゃくちゃストレートきまってたよなでもありがちな男を挟んだダブルヒロインなのだからと自分を律していたよな。


2017年だ。
ああなんか深い思索とかいい。クーアトが結婚した。している。自然に。
「自分の家」と言った。
鉄華団の「家族」に憧れ、生まれのちがいにより結局最後まで帰属意識を持てなかったクーデリアが、「クーデリアさんも家族だよ」と再三引っ張ってもらって、鉄華団の象徴と、鉄華団の外縁(かつどうしようもなく孤児として生きてきたこども)と家族をつくった。

なんかそれなんだよーーー私がオルフェンズをホモソーシャルものと言いたくないのはそれなんだよ。
ホモソーシャルは男同士の絆を絶対視し男にはやらねばならぬことがあるとしがらみを形成していくだろ。それのみを兄弟だと、家族だと言うだろ。

オルフェンズが描いた様々な形の恋愛が物語に及ぼした意義は、ホモソーシャル的家族の解体と相対化だと思うんですよ。
そしてそれが2017年の私たちが持つ「伝統的家族観/恋愛観への懐疑」に合致したと思うんですよ。


そもそも鉄華団ホモソーシャル最下位の男たちを寄せ集めて「家族」と銘打った。

タービンズ名瀬ハーレムはホモソーシャルから爪弾きにされた女たちのセーフティネットとしての家族を。
マクギリスとアルミリアの年の差婚は圧倒的権力差において男に搾取されない女と結ぶ対等であれる夫婦を。
シノとヤマギの恋愛はホモソ的「家族」とホモソが吐棄すべきホモセクシュアルの両立を。

三日月とアトラとクーデリアのポリアモリーは色々意義があると思っていて。
モノガミー規範破壊が家父長制を揺るがしたことは言うまでもなく、恋愛関係が「所詮男の絆には敵わない、女を閉じこめておくための装置」にならず、オルガ&三日月というホモソ関係に引けを取らないインパクトを提示したこと。
ホモソに死んだ男に残された女が泣き暮らさず、立ち上がり、女同士で非ホモソ的家族を形成したこと。
男2人女1人という、ホモソの絆のために女が利用される三人関係ではなかったのもポイント。

タカキが退団した33話『火星の王』がなによりいちばん好きなんですよ。
鉄華団という男たちのホモソーシャル、「火星の王」というホモソーシャルのてっぺんを目指した矢先、だからこそ、ホモソーシャルにいられなくなるタカキが。
裏切り者ラディーチェを疑いはしても「家族だから」と信用しなければならぬと思ったのは、タカキが、鉄華団の言う「家族」がなんなのかちゃんと理解できてなかったからだと思うのね。
チャドが「離れても俺たち家族……」と言いかけたところを三日月が食って「家族じゃないよ」と言いのけたところほんと最高、ほんと最高……!!!
三日月の優しさ!ホモソーシャル的家族にタカキはいられなかったから脱けるんだよラディーチェを殺した上で!
タカキの家族はフウカとアストンなんだよ……。
アストンにとっての家族も鉄華団ではなくウノ兄妹だったんだよな……。
この33話でホモソの忠義に死んだアインをヴィダールが悔やむのも苦々しくて大好き。

こうして家族を掘り下げていった。
進むしかないと宣言さえしたタカキが破滅に向かいゆく鉄華団を脱けられたのは、鉄華団のほかに「家族」つまり「居場所」を見つけられたからなのだ。それが悲哀。



交わした義兄弟の杯は割られた。
鉄華団は結局のところホモソーシャルのてっぺんに上れなかったし、吸収されなかった。義兄弟というホモソ家族は真っ向から否定された。
男の上下関係を最重視するジャスレイを殺したことは直球にホモソーシャルの破壊を意味する。

ていうか名瀬がオルガのために死んだことも、鉄華団が結局賊軍として平和の象徴にされ名すら死したことも、全部ホモソの敗北だよな……。


「家族」は、「彼らの居場所」は、各々が思う、各々が想う、情と生活にかかわろうとする相互アプローチによって成立する糸なのだ。



総評としてはすげえ好き、ですね。
言い訳をしなかった。描くものに自覚的であった。無自覚に踏んだものがなかった。全部わかって踏みにじった。テーマに対して誠実であった。
三日月が大義なんかないと言いきり、ジュリエッタの「大義」に討ち取られた瞬間私の評価は定まりました。
ニヒリズムでも冷笑でもないリアリズムが描けることを証明した。
確かに雑なところ、眉をひそめたいところはあったけど、私にとって重要じゃなかったな。
まあテーマを背負うキャラクターが多すぎたためかうまく扱いきれず発展させる余地が不足して変化のない単調なシーンがどのキャラにも繰り返されだれたのはもったいないなあと思うけど。



いやもうクーアト……シノヤマ……なんか夢かな……わたしどれだけ待ちわびたかな。
同性愛がネタ扱いされず腐媚びと忌避されずクィアベイティングとして恋愛とは呼ぶまいと一線を死守されたりもせず説教くさくもならずただ異性愛同様そこに存在するものとして描かれることを、どれだけ待ちわびただろうか。
ユーリも私を救わなかったよ。
完璧すぎて怖い。今まで私は気取ることしかできなかったのに。余裕ぶって、しかしちらちらと異性愛に溜飲を下げることができるかもしれない期待に全神経を集中し一縷の望みを賭け、かなわないと見るややっぱりねと諦めたふりをすることしかできなかったのに。
シノ生きててよ……生きてても全然許すよ……でも生きてたら「同性愛を描けたのは悲恋だからでしょ!」って拗ねることさえできなくなる。怖い。シノしかもおそらくパンセクなんだろ。はあ。

クーアトもあれは私のなかではメタモアとも呼ばないからな。恋愛と呼んでやるからな。いやたぶんいちばん適切な互いの呼び名はメタモアなんだろうけど。いや「妻」か……。(感慨に耽る)
クーデリアが一人で鉄華団のことを想うときはともかく、アドモス商会の窓辺でふたりが話してたとき、「三日月もクーデリアさんも好き」「三日月もアトラさんも好き」と、"好き"は三人の間に留まっていて、「鉄華団のみんなも好き」と日和らなかったのが最高であることは繰り返し言っていく。


……と書いたところで、「同性婚ができる世界なのに~~なのはおかしい、矛盾している」という意見をいくつも見てしまって腸煮えくりかえってる。
同性婚ができる世界ならホモソーシャルホモフォビアも男女性役割もなくなってると思うなよ!!!!!!!
トランプが大統領に決まった途端に「ホモ野郎てめえの居場所はなくなった」と往来で血だらけに殴打されるヘイトクライムが多発したアメリカはなんだ?同性婚ができるから優しい世界か?
人身売買はあるのに同性婚は認められてるのはいくらなんでも歪すぎる?現実がそういう歪な世界だと知らんのか??
ホモフォビアの存在は名瀬からもユージンからも匂わされていた、そりゃヤマギ恋愛感情隠すでしょ。知ってるか、日本も同性愛が受け入れられてきてるけどいまだ同性愛を理由に人が死んでるんだよ。私も命こそあるけど殺されたよ。

まあ甘い世界観のほうがわかりやすいよな……でも鉄血が描いたリアリズムってライドが救われない世界のことだろ……マクギリスもガエリオボードウィンに殺され鉄華団もサクセスできずヒューマンデブリがいなくなっても日陰者が消えない世界だろ……なんも矛盾ねえわ。
持たない者が"きちんと"救われない。救われたらいま世界に"あってしまう"現実を矮小化してしまう。単に「これが現実なんだよオラァ」に留まらず、そこまで踏み込んだと思ってるよ。
だから好きだと言ったんだ。私はオルフェンズを。