真昼の淡い微熱

感想ブログ

あのこは貴族(映画)

序盤の婚活迷走がなかなかに面白かったな。
門脇麦さんが目まぐるしくお着換えしていく上品でお洒落な服を眺めるのも楽しかった。
似合う。

私はなんでか知らんが強さに縛られて苦しむ男(とそこから解放されていく男)が好きなんで幸一郎に「女に救われてほしい」と思ってしまった。
だから華子が幸一郎を見捨ててなんだか悲しかった。
「華子は結婚してくれただけでいいよ」「そうするものだから。華子が俺と結婚したのと一緒」は結構愛おしい。
ちらちらと見え隠れする無自覚な加害性、構造への加担と諦念、それは真綿のような苦しみとして描写される。
あからさまなDVなどが描写されなかったのは意図的だろう。(加害者として描こうとしてるのか?と思ったりもしたけど、その意思はあるっぽい)

しかしそれなら政治家立候補する幸一郎を支える苦労とかももっと描写されてほしかった。
義実家の重苦しさや義母の圧力とかはかかるけどいや日常的には悠々自適に暮らしてるじゃん……そうなると離婚は生活の苦しみとかと切り離された「自分らしさ✨」の達成のためでしかなくなるじゃん……。
真綿のような苦しみからの解放、という物語が採用されるところが、なんとなく「日本の邦画を見る層」向けの話だと思う。


構造が少女漫画なんよね。
一人の男を挟んだ女ふたりの話としてはこの、争わなさ、むしろ微かな連帯……めいたものが描かれる新鮮味はあるんだけど、話の構造は昔からよくある少女漫画だと思う。
周りに流されて生きてる主人公が、周りの目を気にしない主体的な女(あるいは男)に出会って自分らしさを獲得するという。

ただそこに絡む階級の話としてはふわっとしてるなと。
時岡美紀は地方の旧中間階級で、大学は辞めざるをえなくなるけど実家には帰れるし一人暮らしもできる。貧困層ではない。

ただ「東京は私を搾取して成り立っている」はポストネオリベラリズム時代のセリフだと思った。
地方を出てきても解放はそこにない。

でも時岡美紀が友だちと起業即断するシーンはすごいよかったな~。
華子と美紀が友だちになるような話ではないバランス部分もよいと思った。