真昼の淡い微熱

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スキップとローファー9巻/高松美咲

志摩くんが友達のおうちお泊まりのときに手土産を持っていかなかった描写にこの漫画の魅力が詰まっている。
並みの作品ならそもそもそんな細かいところわざわざ描かないし、描いたとしても手土産持たせただろう。
だって助手席から気遣いしてナオちゃんに「ぐぬ」と言わせているのだから。

「そのくらい気遣いできるスマートな男なんだから手土産くらい持ってくるだろう」とか安直に考えない。
「志摩くんにそんな非常識な真似させられない!」とか肩入れもしくは読者への気配りによってキャラをねじまげたりしない。

志摩くんは、気を遣いすぎてしまって自分を使い減らす人だし、親からそんな世間づきあいも教えてもらえなかった人だ。
とりあえず「過去母親も追い詰められていただけで本当は志摩くんを愛していた」オチにならなそうだし、なんか母親は外見からしてド派手異常者として登場するわけではないけどナオちゃんに電話もしないし手土産も持たせない非常識さがある微妙な塩梅で安堵する。

そういう細部が徹底している作品が面白くないわけないんですよ。
迎井がいつもフレッドペリーのポロシャツ着てんのに初めて自分で服買いにいったらいちいち値段に引いてるのも……漏れ出るご家庭事情。

迎井の「薄情モンがと思ってるよ」もよかった。
みつみに対しても氏家くんから的確に短所指摘されてるとこもよかった……「一方的に「してあげている」という認識」!

ああでも、アニメも本当に本当によかったんだけど、アニメで振り返っててナオちゃんの描写にもやもやして。
そこで男性声優起用しなかったのはほっとしたんだけど、動物園尾行シーンで髪型変えてから戻すとこがうーん。
トランスジェンダーが、好きなときにジェンダーを着たり脱いだりできる」みたいな偏見の強化になっているから。
今巻もわざわざ「おば」に傍点つけんでいいのに。

志摩くんの恋愛観はそうじゃないかなと思っていたことが形になって明確化してすっきりした。
そのへんのヒント散りばめ方も上手いよね。
あ、あと絵がうまくて!人物の横顔の描き分けができる漫画家さん好き!